苔玉フリップ・フロップ


 「苔織衣」「苔衣」「苔清水」「苔の庵」「苔むす」。古来日本人は苔に対して特別な感情を持っていたらしい。
清冽な石清水に洗われ、森林に生い茂る様に彼らが見いだした言葉は、永い時間の流れを想起させ、ある種の神的な印象すら付帯させている。
それらは転じて、永遠に語り継ぐべき何らかの記憶の存在を、共通認識として私達に植え付けることとなる。

 苔を集めて玉状にしたものに水分を吸収させると玉は膨張し、乾燥させると収縮する。
この性質に着目し、苔玉の膨張と収縮を一種の信号源と見なして、この装置は構成されたと見られる。
 上下二段で一対となり、上段には給水用の水、下段には信号源の苔玉が置かれる。
下部の竹製感知器で苔玉の膨縮が検出され、連動した隣の上部給水装置へつながる。そこから給水された苔玉は膨張し、さらに隣の上部給水装置へとつながる。下部感知器から上部給水装置への接続の仕方により、順方向への連動と反転方向への連動が可能になる。
 これはいわば、論理式における肯定と否定に相当し、この装置での連動の組み合わせは、現在のフリップ・フロップと呼ばれる論理回路に相当する。

 フリップ・フロップは0と1の二つの安定状態を持ち、あらかじめ設定された何らかの状態変化が起こらない限り、前の状態を保持し続けるという特性を持っている。このフリップ・フロップをn個用い、nビットの情報を一時的に記憶する回路、レジスタを構成することができる。


(1)RSフリップ・フロップ

RSフリップ・フロップは最も基本的なフリップ・フロップで、2つの安定した状態を切り替えることで1ビットの情報を記憶する。



 

(2)Dフリップ・フロップ

RSフリップ・フロップを3つ組み合わせてDフリップ・フロップを作ることができる。
クロックパルスの立ち上がりや立ち下がりに同期してDに入力されている値を取り込み、次のクロックパルスが入るまで、その値を保持することができる。



 

(3)苔玉フリップ・フロップ

苔玉フリップ・フロップは、苔玉の伸縮を利用したRSフリップ・フロップを1単位としている。その動作は、論理値の上ではRSフリップ・フロップとほぼ一致する。
苔玉フリップ・フロップにおいても、3つ組み合わせてDフリップ・フロップを作ることができる。 その配置と接続も同様に、Dフリップ・フロップの回路図とほぼ対応している。



Flip-flops with moss balls


  Balls made from moss expand when they absorb water, and contract when dried.
This device seems to have been built based on observations of this characteristic, using the moss ball’s expansion and contraction as a kind of signal source.

The combination of interlocking used in this device corresponds to the current logic circuit called the flip-flop.
  A flip-flop has the property of maintaining a stable state of either 0 or 1, and to maintain the state unless a change occurs in some preset parameter.