願いの集まる場

氣象儀の動きは周囲の気象条件に連動している。直接動作を引き起こす要素は湿度の変化だが、湿度の変動はその他気象条件との相関がある。

上のグラフは晴天、曇天、雨天時における典型的な気象観測値の変化と、氣象儀の動作との関連を示している。

(状態1は天秤の盛塩側が上がった状態。状態2は下がった状態)

瀬戸内の製塩

 

 瀬戸内における製塩の歴史は古く、弥生時代中期には土器による製塩が行われていた。17世紀頃から塩田が開発され、1829年(文政12年)、久米栄左衛門通賢により完成された「久米式塩田」はその後の塩田開発のモデルになった。

 主要産業としての製塩は信仰の対象ともなり、塩の神を祀る鹽竈神社が各地に鎮座している。製塩に適した瀬戸内の気候は、旱の危機を引き起こす一方で、生活の糧を人々にもたらしていた。

 

願いの集まる場

 

 雨乞い祠を築くよりどころは、先史より受け継がれてきた神聖な場所の記憶と、そこを基点に行われてきた祈りの積み重ねにある。慈雨への要請は時代と共に薄れたが、より良い未来を求める人々の思いは残る。

 神聖とされる場所は、山、大岩、大木、川、湖、湧水等、自然崇拝による信仰の場であることが多い。これらの場所や物体自体に最初から力があるわけではない。人の集まる契機がたまたま顕れることが始まりとなる。

場所を見つけ、整え、しつらえる行為から生まれた契機は、その場所に人々を呼び集め、特定の場所と結びつけられた物語は伝播してゆく。やがてそれは人々のあいだで事実として認識され、人々に認識されることでそれは事実になる。

 そこに行けば何らかの力をもたらされる。その期待が多くの人を惹きつける。ささやかな願いの集積する場として、氣象儀は人々の流れを誘導する契機となるだろう。