ジェファーソンの扉 Jefferson_door (2014)

SICF15出展作品。

展示会場である青山スパイラルは、蘭学者高野長英が最期を迎えた地です。

この地に潜伏する長英と彼の援助者達によって運用された、暗号機と隠し扉を兼ねる装置という想定で制作しました。同じく高野長英にまつわる物語を主題とした、中之条ビエンナーレ2013出品作からの連作となっています。


The fictitious device which exhibited in SICF15.




はじめに


 天保10年(1839年)蛮社の獄により投獄された蘭学者高野長英は、牢の火災に乗じて逃走し潜伏生活を送っていた。全国を逃亡した後、沢三伯の名前で青山百人町の隠れ家(現在はスパイラルの所在地)に町医者を開業するも、嘉永3年(1850)10月30日捕り方に踏み込まれ自刃したと伝えられている。


 しかし明治に入り、長英は自刃ではなく同心達の殴打により絶命したとの回想を当時の捕吏の一人が語っている。無抵抗の容疑者を殴打殺害するという不祥事を隠蔽するため、同心達は長英が激しく抵抗し覚悟の末自刃したとの報告書を奉行所に提出したらしい。そしてそれがいつしか公式の記録として伝えられるようになっていた。

このような行為がなされていると、彼らの行動規範そのものに対する不信からまた別の想像が働いてくる。虚偽の報告書は同心達がより大きな不祥事を隠蔽するためのものだったという可能性は無いだろうか。

あの日捕えられたのは、本当に高野長英だったのだろうか。


 先の人物と別の回想では、踏みこんだ長英の家に奇妙な扉があったと伝えている。

証言の検証過程において、この扉の機構が第3代アメリカ大統領トマス・ジェファーソンにより考案された暗号機に類似しているとの指摘もあった。

長英は蘭学研究の過程で得た米国の暗号術に関する知識を用い、援助者と連絡を重ね、江戸での潜伏生活を送っていたのではないか。そして何らかの手段で捕り方の目を欺き、変装と改名を重ねつつ逃げ延びた。


 ここではこの扉そのものが暗号装置であり、同時に逃亡経路へ通じる隠し扉を兼ねるものだったと推定し、再現制作する。



ジェファーソンの暗号機(ジェファーソン・ディスク)


文字を異なった配列で円盤の外周に刻印し、軸へ通す。送信側と受信側は円盤を同じ順番に並べる。

送信側は円盤を回転させ送信文を作る。その状態で別の任意の行から読み取られた文字列が暗号になる。

受信側は逆に、円盤を回転させ暗号文と合わせる。そのとき平文が復号される行が現れてくる。

円盤の並ぶ順番は今でいうパスワードに相当し、暗号文と並び順が互いに一致しないと解読することができない。